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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)545号 決定 1978年10月13日

抗告人 安村俊一 外一名

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

一  本件各抗告の趣旨は、「原審判を取り消す。本件を東京家庭裁判所に差し戻す。」との決定を求めるというにあり、昭和五三年(ラ)第五四四号事件抗告人安村俊一の抗告理由は別紙抗告の理由(一)、同年(ラ)第五四五号事件抗告人安村洋司の抗告理由は別紙抗告の理由(二)記載のとおりである。

二  抗告人らは、まず、原審判には主文のみが記載され、理由の要旨が全く記載されておらず、原審判は、審判書に主文及び理由の要旨を記載すべきことを規定する家事審判規則一六条に違反するものであつて、審判として成立していないと主張するので検討するに、原審判には、その主文に先立つて、「上記申立人(抗告人安村俊一)からの当庁昭和五一年(家)第九七〇五号準禁治産宣告申立事件、同昭和五三年(家)第五六五号保佐人選任申立事件について、当裁判所はその申立てを相当と認め次のとおり審判する。」との記載があるところ、右にいう「その申立てを相当と認め」とは、原裁判所が、その取り調べた資料に基づいて審理した結果、「事件本人安村カズは精神障害により心神耗弱の状態にあり、事件本人を準禁治産者とし保佐人を付さなければ、その利益を害するおそれがある。」旨の抗告人安村俊一の申立てのとおり、事件本人が心神耗弱の状態にあつて準禁治産の宣告をするのが相当と認めた趣旨であることが明らかであり、本件のようにもともと対立当事者及びその間の紛争の存在を予定していないいわゆる甲類審判事件においては、その審判に対し即時抗告が許される場合であつても、なお右の程度の理由の記載をもつて、家事審判規則一六条にいう「理由の要旨」の記載を欠く違法なものとまではいうことができない。よつて、抗告人らの前記抗告理由は採用することができない。

次に、抗告人らは、事件本人は心神耗弱の程度にとどまらず心神喪失の常況にあるものと認められるから、事件本人の利益を保護するためには禁治産宣告をなすのが相当であつて、事件本人を準禁治産者とした原審判は不当であると主張するが、本件は、前記のとおり、抗告人安村俊一が事件本人は心神耗弱者であるとして準禁治産宣告を求めて申し立てたものであるのみならず、記録中の資料によれば、原裁判所が事件本人を心神耗弱者と認めて準禁治産の宣告をしたのは相当であつて、事件本人が心神喪失の常況にあると認めるに足る資料はないから、抗告人らの前記抗告理由もまた採用することができない。

更に、抗告人安村俊一は、原審が選任した柴田健次郎が保佐人として不適当な人物であるとして原審判を非難するが、保佐人選任の審判に対しては即時抗告をなすことができる旨の規定が存しないから、準禁治産の宣告とともに保佐人選任の審判がなされた場合であつても、保佐人選任の審判に対し即時抗告を申し立てることはできないものと解するのが相当である。

三  よつて、本件各抗告はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 滝田薫 河本誠之)

別紙 抗告の理由<省略>

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